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最高裁判所第一小法廷 昭和25年(さ)2号 判決

主文

原決定及び前記被告事件につき為した公判期日の指定並びにその後の訴訟手続を破棄する。

理由

検事総長福井盛太非常上告趣意について。

先ず本件申立の適否を調査すると、非常上告は、判決確定後その事件の審判法令に違反したことを発見したときに限りこれを為し得るものであること旧刑訴五一六条の明定するところである。しかるに本件申立の原裁判は旧刑訴四二七条に基く上告棄却の決定であって判決ではない。しかし、同決定は同四四五条に基く上告棄却の判決と同じく、原審判決を確定せしめる効力を有する当該事件に対する終局的な裁判である。従ってかかる決定につき法令違反あることを発見したときは、これに対しても非常上告を為し得るものと解するを相当とする。

次に、本件申立の当否につき按ずるに、前記被告事件の記録によれば、被告人は大阪高等裁判所の所論有罪の第二審判決に対し適法な上告の申立を為し、当小法廷裁判長において最初の公判期日を昭和二四年一〇月二七日午前一〇時と指定したところ、被告人は法定の期間内に上告趣意書を提出せず、しかも形式上は右期日の通知は被告人に対し適法に(旧大審院決定、昭和一五年(ぬ)三号同年一二月一一日刑三決定判決全集八輯三号三四頁参照)なされているが如き外観を呈していたため、当小法廷は右指定の期日に公判を開き旧刑訴四二七条に則り上告棄却の決定をしたことは所論のとおりである。しかるに、本件非常上告事件の記録を精査するに原審判決書には被告人の住居が不定と記載され且つ被告人は当時大阪拘置所に在監していたこと明白であったにかかわらず、当裁判所は右公判期日の通知を誤って被告人の本籍地に宛て発送し、その結果配達不能となり被告人には結局右期日の通知は到達しなかったことが判明するに至ったのである。従って、被告人に対する最初の公判期日の通知は未だ適法になされなかったことに帰し、当裁判所は旧刑訴四二二条一項に規定する手続を行わないで、公判を開き事件の審理をした上、上告棄却の決定をしたこととなるので、その訴訟手続並びにこれに基く原決定は法令に違反したものといわなければならない。

よって、本件申立はその理由があるから、旧刑訴五二〇条に則り、原決定並びに前記公判期日指定以後の訴訟手続を破棄すべきものと認め主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 沢田竹治郎 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 岩松三郎)

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